ものすごく、愛してる。だから… /『マーキュリー・ファー』

吉沢亮と匠海が兄弟を演じるというだけの情報でみにきたので、なんだこれ〜〜〜!?がド正直な感想。残酷で過激な表現に気分が悪くなってしまう人もいるのでは…と勝手に心配しつつも、私にはとても好みの地獄でした。良い疲労感。絶望的な状況でギリギリの選択を迫られた時、人間がどんな選択をし、どんな行動をとるのか。現在の世界情勢も相まり、この舞台が今上演されている意味について考えてしまいました。

 

2/26『マーキュリー・ファー』@兵庫県立芸術文化センター

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・真っ暗な空間に兄弟が現れ、窓を塞いでいる木板を一つずつ剥がし、暗い部屋に日の光が射し込むところから始まるのが好きでした。本当になにも知らずにみにきたので、一種の謎解きに参加しているような、作品世界への没入感が楽しかったです。

 

・何でも知ってるお兄ちゃんがたまらなく誇らしい弟のダレン(北村匠海)、かわいいな…きらきら星のワンフレーズで分かる歌唱力は一周まわって面白かったです。初舞台とはいえさすがの演技力で、匠海のお芝居が本当に好きだと改めて思った。

 

・エリオットを演じる吉沢さんは、7年前の日本初演を観劇して絶対にこんな作品に出たいと思っていたらしい。私はコメディ路線よりこっちの吉沢亮さんの方が好きなのでとてもとても解釈一致。賢く、"仕事"ができて、独りよがりでありながら愛する家族や恋人を大切に思うエリオット、愛おしくて苦しい。

 

・ダレンが急に思い出した!と言いはじまる昔話の中でも、父親に作ってもらった木の拳銃のお話が幸せで好きでした。エリオットと2人で撃ち合いをしていた過去を思い返すように急に拳銃ごっこをはじめるダレンと、しぶしぶながら付き合ってあげるエリオット。幸せだったあの頃の気持ちにいつでも戻ることができるのに、2人を取り巻く環境はそれを許してはくれないことが苦しい。

 

・エリオットがダレンにバタフライを与えるシーン、みてはいけないものをみている気持ちに…

 

ミノタウロスが牛の頭を持った人間なら、ラビリンスを一緒に出られたかもしれないというダレンの言葉、そうだよ、そうなんだよ。ダレンにはそれが分かっているんだね…もうずっと苦しい。

 

・ものすごく、愛してる。だから…この言葉に続く行為を、愛という目にみえない不確かなものを、この兄弟は言葉にして確かめなければ安心することができない。つかむ、蹴る、殴る、殺す。ものすごく愛している相手が他の何かに傷付けられ、残酷な世界を生きていくぐらいならば、自らの手で殺し、この世界から逃す方が良い。そんな残酷な決断を、それでも自分ごとに置き換えて考えることができない私は、本当に平和な恵まれた世界に生きているのだと実感する。

 

・最後の爆撃で揺れる客席も、とてもリアルに感じられて良かったなぁ。はじめはエリオットが宥める側だったのが、最後にダレンがエリオットを宥める側に変わるのも良かった。誰よりもはやく大人にならなければならなかったエリオットが最後にみせる本当の姿が、ダレンだけに向けられたもので本当に良かった。

 

・2015年版の高橋一生瀬戸康史の兄弟も見たすぎて見たすぎて困る。どうにか見れませんか?パンフで出演者さんが語っていたのと同じく、この作品をもう一生見たくないという気持ちもあるけれど、色んなひとの演じるあの2人が見てみたいとも思う。私は藤原季節のエリオットが…見たい…です…………(どこにも届かない欲望)